新宿にある行きつけのバー「朱惨奴」で軽く酔ってから店を出たはずのSM作家・関谷淳は、路傍にうずくまる浮浪者を目撃したのを最後に、気がつくと公園の植え込みに仰向けになって二時間あまりも倒れていた。気絶した記憶すら残っていないあまりにも奇妙な意識の空白に戸惑いながら朱惨奴に戻った淳は、徹夜の仕事のため早めに店を後にしたことをママから聞かされてさらに当惑する。結局閉店まで居残った淳は、この店の目当てでもあるアルバイトの女子大生ホステス・純子が客の男を送り出すのを見て店を出る。ホテルにしけ込むため雑踏で純子を待つ男に歩み寄った淳は、生来の性格からは考えられぬ大胆さで男に言い寄って追い払う。頑強なはずのその男が淳の視線に打たれただけで恐怖に錯乱しながら立ち去ったとき、淳にはまたも奇妙な意識の空白が訪れていた。やがて現れた純子に対して居丈高に振る舞った淳は、反抗する純子を嘲笑いながらポケットから取り出した手錠を掛ける。淳の変貌ぶりに怯え狼狽しながら、人込みのなかをみじめな拘束姿のまま引かれていく純子と同時に、淳もまた、自分が持っているはずのなかった手錠の存在を頭の片隅でいぶかしんでいた。 |
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