雅彦が出張で不在の雨の午後、福永家私邸の二階の自室に引き取っている若奥さまの千尋への取り次ぎを事務長の木島が願い出る。面会を許されて現れた木島の思い詰めて血走った表情から不穏な気配を察知して、久美から命じられた午後の呼び出しを引き伸ばしつつ長さんからの指示どおり二階の様子を窺っていた百代が盗み聞いたのは、木島を厳しく叱咤する千尋の鋭い叫びであった。
部屋では、福永病院の不正経理を種にして不貞の関係を迫った木島に対して、千尋が侮蔑を込めた激しい罵倒を浴びせていた。見栄を捨て分別を失ってすがりつく事務長を振り払って奥の間へ逃げ込む若夫人。そのとき気勢を削がれた木島の前に現れたのは、一部始終を覗き見ていた武彦であった。