私設秘書の名目で男爵から簡素な屋敷を与えられた竜二郎は、長髪と髭を刈り、女中に付けられた小夜とともに方正な暮らしを送り始める。小夜まで顔を赤らめる美男に変貌した竜二郎は、もくろみ通り兄によって勘当を許され、華族社会への復帰を果たした。元老公爵の主催したパーティーに男爵とともに招かれ貴婦人たちの讃嘆の眼を集める竜二郎は、居合わせた桜町綾子をも信じられぬ驚嘆の思いに赤面させるのだった。
パーティーを辞した男爵と竜二郎は赤坂の料亭に赴いて、政商の林謙介と対面する。満州の利権をめぐる商談を男爵との間に成立させ、買い取ったロシア貴族の幼女の話で男爵らを驚嘆させて林が悦に入っているところへ、隣の座敷で酔った青年将校グループの一人が馴染みの芸者を探して男爵の座敷に乗り込む。忠国の気概に燃えて気炎を吐くその男こそは敦子の元の恋人・高崎雅彦であった。男爵と林を売国奴と名指して粛清の警告を叫び散らす雅彦がなだめすかして連れ去られると、抜け目ない林は、雅彦の目当ての芸者・小太郎を男爵のために今夜買い取ってあることを明かすのだった。