昏い光を瞳に宿らせ血まみれの姿で立ち上がる倫也の姿に美奈は戦慄する。恐怖に駆られて繰り出した鞭を掴まれて引き寄せられた美奈は、がっしりと肩を掴み締めて眼前に迫る男の顔に唾を吐きかける。無言でブラウスを引き裂かれ、錯乱しながらあらがう体を軽々とあしらわれて床に転がされ両手首を前縛りにされる美奈。口惜しさに嗚咽する驕慢な令嬢は、天井の滑車に繋がれた手首の縄を引き上げられて爪先立ちの吊り姿に固定される。すさまじい悪態をついて倫也を罵倒する女王の頬に倫也の打擲が弾ける。亡き妻との生活を侮辱された倫也は美奈に鞭をたたき込み、衝撃にガックリとぶら下がった令嬢を残したまま、波立つ怒りを静めるため階上の自室に駆け上がる。
自室のソファに倒れ込んだ倫也の胸中に、ついに美奈との対決を迎えた感慨が湧き上がる。大学卒業後、有力な事業家の病弱なひとり娘・淑子と結婚した二十四歳の倫也は、死病を患いながら純粋な女の愛に生きようとする淑子の情熱によって、青春時代には抑圧されていた女への激しい愛を目覚めさせられた。ほどなく淑子が夭折した後、養父の事業を継いで実力を発揮していく倫也は、広大な屋敷の一角に得たこの地下室付きのガレージを居室にしつらえたのだ。折しも世を去った美奈の父は、高慢なひとり娘の将来を、奴隷として服従してきた倫也の裁量に委ねるような謎めいた遺書を残していた。巨額の遺産を得て遊び暮らす美奈は父の遺志も知らずに、今日まで依然として倫也を召使いのように扱ってきたのである。