会社の倒産がきっかけで家計に行き詰まった三十過ぎのしがないサラリーマン・飯沼信吉(いいぬましんきち)は、夜の勤めに出た妻の幸枝(ゆきえ)との諍いをもこじらせてしまったことで屈折した思いを抱えながら、新たな会社の面接に向かうため朝の通勤電車に乗り合わせていた。だが、満員電車の中でたまたま信吉の眼の前に押しつけられてきた若い女が、ジーンズに包んだ張りつめた尻を信吉の手に押し当てて柔らかい接触感で欲情を掻きたてる。欲望をこらえきれず、偶然を装って女の股間に手を伸ばした信吉を、女の鋭い悲鳴が咎めたてる。近くに乗り合わせていた女の恋人に次の駅で引きずり降ろされた信吉は、公衆の面前で痴漢行為を罵倒されたうえ顔をぶちのめされて昏倒する。屈辱に逆上した信吉は若い二人の後をつけて、二人の住む高級マンションを突き止める。しがないサラリーマンたちをよそに優雅な暮らしを送る北村正哉とアキの夫婦に対して、信吉の憤懣が復讐を求めて弾けようとしていた。