まだ寒さの残る早春のある日、銀座の一流クラブの裏方を務める坂上は東京を遠く離れて北国の港町を訪れる。鮮烈な青さをたたえる北国の海に詩情を誘われつつ土地の旧家へと向かう坂上の目的は、その旧家の末娘で、法事のために帰省しているホステスの月子を迎えに行くことだった。喪服に身を包んで現れた月子は坂上の思いがけぬ来訪に驚きつつ、自分が店から逃亡を疑われている身と知って暗澹とする。ホステスの月子は、懇意にしていた客の会社が倒産したことにより多額の焦げつきを店に生じさせ、五百万円におよぶ借金を背負うことになっていたのだ。生家も没落し、今や下流のクラブに身を落として体を売るしかない運命を前にした月子の悲壮な姿に美しさを感じつつも、坂上は、月子を連れ帰る途上の宿に、すでに最初の客を斡旋していた。