夜目にも白々と剥きあげられた裸体に、どす黒くいましめが喰い込み、猿轡が頬にくびれ込んでいた。
五月の荒れる夜、江戸品川の浜辺を漁場とする源助が遭遇したのは、覆面をした五人の男たちによって水際に立てられた磔柱に今しも架けられようとしている全裸の武家夫婦であった。取り囲まれた源助は男たちに促されるまま、誰ともわからぬ高貴な武家の女房を夫の前で犯し、絶頂を極めさせる。
翌朝、逆さ磔にされてこときれている若夫婦と首を切られた漁師の死体を囲む野次馬のなかに立ち混じる一人の浪人。下手人について鋭い推理をめぐらせた浪人は道行きの途上で傴僂の忍者に襲われる。巧みな剣さばきを見せた浪人は忍者らの仲間に加わることを申し出るが、「るし兵」と名乗る忍者は拒絶する。浪人は、近ごろ江戸の街を騒がせている強姦魔「姦鬼」であった。るし兵たちの犯行に刺戟された姦鬼は行きずりの商家の内儀を手代の前で犯して昂ぶる情欲を鎮める。
れっきとした旗本の奥方が、主人の眼の前で無頼の徒に手取り足取り狼藉の限りをつくされる――
逆さ磔にされていたのは旗本・立花十郎兵衛とその妻の留女であった。十日ほどのち、十郎兵衛の盟友であった三人の旗本が顔を揃える。十郎兵衛の妹・千草を息子の妻に迎えようとする赤星内膳、内膳の長女・志津を娶った土岐兵馬、次女・綾との婚礼を前にした水野右近である。十郎兵衛への仕打ちが、さきの島原の役において彼らが一揆軍の女たちに為した非道な凌辱への復讐と推した内膳らは、廻船問屋の堺屋久兵衛とともに対策を話し合う。だが女遊びに狂う土岐兵馬は妻・志津に迫っているかもしれぬ危険も顧みず、仲間(ちゅうげん)の権平を残して去る。そして権平の前に現れた姦鬼もまた志津を狙っていた。