その後しばらくして、美香の噂を伝え聞いたボスが狂介に持ちかけてきた新たな仕事は、プレジャー・ランドの筆頭株主である鬼頭久右衛門の屋敷に赴いての出張調教の要請であった。プレジャー・ランドを創立した伝説の人物は八十を過ぎてもなお欲望冷めやらず、隠退して暮らしている屋敷でSMプレイの演出を望んだのだ。調教相手として同行するよう打診された美香はためらうことなく受け入れる。
専用のヘリコプターと迎えの車を乗り継いで八王子の山中にある鬼頭老人の宏壮な屋敷を訪れた狂介と美香は、古風な趣を色濃く残した屋敷の風情と老人の趣味に感嘆しながら、奥の間へと導かれる。やがて現れた車椅子の鬼頭老人はいまだ若々しさをとどめ、モンペ姿の若い付き添いの女とともに二人を歓迎する。里子と呼ばれる美香と同年輩のその美しい女は、美香にも文乃にもない聡明な風情をたたえて慎ましく老人の傍らに控える。狂介が老人とマゾ談義を交わしつつ、リングまで嵌めさせた美香の隷属を誇るいっぽうで、勝ち気な美香と控えめな里子の間にも、目に見えぬ対抗心が芽生え始めていた。