そうして男を楽しませみずからも楽しみながら、カリンははばかりもなくよがり声をあげた。
解放された嗜虐の欲望に身を任せて美奈子の女体を背後から激しく責め苛んでいた淳は、ふいに女異界人の念力に打たれて悶絶し、白濁を宙に撒き散らしながら、絶頂寸前の愉悦に尻を振りたてる若妻の体から離れる。その場を支配した女異界人・カリンは佐々木に命じて縛めを解かせた美奈子を浴室に追いやったのち、服を着せた二人の男を有無を言わさずマンションから連れ出した。車でアパートに連れもどされた淳と佐々木を前に、時空パトロオル隊の一員と称するカリンが語ったのは、タイム・マシンの不正利用の罪によるアシルらの逮捕と強制送還の知らせであった。私的なタイム・トラベルを禁じる未来社会の公安機関として、過去への介入を抑止し被害を修復するためにパトロオル隊はアシルら犯罪者たちを追ってやって来たのだ。これまでの乱行の責任追及を許される代償にカリンから固く口止めされた淳と佐々木は、アシルらに凌辱監禁された現代の女たちが心身の回復の見込みも覚束ないまま未来世界へと連れ去られることを知って慚愧にうなだれる。不適応者と倒錯性欲を根絶した未来社会への疑念を払拭できない淳の前でカリンは銀色のスーツを脱ぎ去って、完璧なまでに造形された裸の女体の美をさらけ出す。金髪の美女の完全な肉体美を息を呑んで見つめる男たちにカリンは優しく微笑みかけ、テレパシーの力で甘美な情交へと誘う。裸になった淳と佐々木はカリン誘いに導かれるまま至上の美肉と絡み合い、相次いで陶酔の肉の交わりを遂げていく。女性美をきわめた異界の女もまた、男たちの怒張を食い締めて喜悦の表情を曝しつつよがり泣きを放つのだった。
彼女たちはいま異境の地で果たしてどんな生き方をしていることか――
明け方になって淳と佐々木が目覚めたとき、カリンの姿は一夜の夢のように消え去っていた。事件のすべてに決着が着いたことを悟って放心する二人の男。しかし異界人たちが去った後も、アシルによって目覚めさせられた倒錯の嗜虐欲に憑かれて満たされぬ思いに煩悶する淳を、佐々木は痛ましげに見守る。
その後の平穏な日々のなかで、佐々木は異界人とともに現代から姿を消した美女たちの行く末に思いを馳せるいっぽう、「ギロ眼」に取り憑かれたかのように迫力溢れる作品を発表し続ける淳を気にかけていた。ある日淳のアパートを訪れて不在の淳の帰りを待っていた佐々木の前に、取り乱し高揚して異様な笑いを浮かべた淳が現れる。嗜虐欲に憑かれたSM作家はついに理性の抑制を破られ、異界人の念力の助けもなしに女を襲ってきたのだ。レストランで見かけた行きずりの美人女子大生に眼をつけた淳は女のマンションに力ずくで押し入り、激しく抵抗する女を裸に剥き、縛り上げ、数々の責め具で蹂躙し尽くした。淳が証拠を隠滅さえせずに伸びきった女を後に残してきたことを知って佐々木は破滅を悟り、陶然としている淳を急かしてアパートから逃走させる。
一か月後、淳はいまだ警察の捜索に捕らわれることもなく逃走を続けていた。淳が残した構想中の書き下ろし大作『不適応者の群れ』の未完を惜しみつつ、淋しい日々を送る佐々木。ある夕方、佐々木が新宿駅の地下プロムナードで垣間見た猫背の浮浪者の後ろ姿が、SM作家・関谷淳のなれの果てであったのかどうかは、ついにわからずじまいであった。