厩の火事を引き起こしたのはマルグリットであった。拷問室から引き出された後ピエールによって厩で凌辱されたマルグリットは、一揆軍が突入した頃、汚された肉体に残る汚辱の名残をおぞましく感じながら、両手を上に伸ばして柱にくくりつけられた裸体を藁の上に転がされて虚ろな思いに捉えられていた。秘密を洩らしたうえに処女の身を賤しい下男に汚されて生き抜く誇りを失ったマルグリットは城もろともおのが身を焼き滅ぼすことを願い、台の上にゆらめく蝋燭を藁の上に蹴落とす。隣で目覚めてはね起きたピエールに固くしがみついて道連れにしつつ、マルグリットの意識は遠のいていく。いっぽう、城内を次々と制圧した一揆軍は、大広間で衛兵頭ゴタールに行く手を阻止されて苦戦していた。ジャンに救い出されて愛剣を取りもどしたファビオが進み出てゴタールに打ちかかり、激しい斬り合いの末に巨漢の衛兵頭を打ち倒したことで、戦いの形勢は完全に決まった。
この期に及んでもブロン侯爵の寝室では、ブランシュ姫が、昼から続いた幾多の責め苦の総仕上げであるかのように、侯爵とフォラスによって責められていた。貞操帯ひとつの裸身を四つん這いに床に這わされた姫は、そのか弱い背にフォラスをまたがらせて、牝馬さながらに追いたてられて這いずりまわらされる。首輪についた手綱を引き絞られて涙に濡れる美貌を仰向かされ、下向きに垂れた乳ぶさを揺らし、侯爵の鞭で打ちたたかれた尻に赤い鞭痕を刻みながら、悲痛な悲鳴と哀訴を絞って這いまわるブランシュ姫。駆けつけてきた配下から急を告げられ、思いもかけぬ敗北と破滅に激昂する侯爵。主を見捨てて逃げ出そうとしたフォラスを怒りに任せて叩き切った侯爵のもとに、ファビオが現れる。激しい斬り合いのさなか、ファビオの背後に忍び寄った衛兵が繰り出した剣は、あやうく身をかわしたファビオを逸れて侯爵を貫く。同時に駆けつけたジャンが衛兵を切り捨て、死に瀕した侯爵に積年の恨みを告げつつとどめを刺した。戦いは果てたが、シーツに身を包んで泣き伏すブランシュ姫のかたわらで、ファビオは慰めの言葉もなく立ち尽くすしかなかった。
【十二月】一か月後、ピエモンテを目指してドーフィネの山中を越してゆく騎馬の一行は、名医ピカールと娘のラミアを伴ったブランシュ姫とファビオ、クレリアたちであった。ブロン侯爵は滅びプレラチも処刑されて、正統の領主ジャンの治世が回復しても、デスノス城で悪夢の刻を過ごした女たちの心には深い傷痕が刻まれていた。愛しい恋人の前に惨めな奴隷姿を曝して姫の威厳を失ったブランシュ、城中で使われた淫らな香によって女の官能を目覚めさせられ疼く肉体を持てあますクレリヤ、そして貞操帯を嵌められた全裸の姫の姿を脳裏から追い払えないファビオ。ただ一人の処女であるラミアは報われることのないファビオへの想いを胸に苦しみ、ピカールことフラメルは、マルグリットの死を知って以来暴君へと変じたジャンの圧政のさまを思って心を痛める。一行が進む道々には、かつての領主たちの妻や娘が素っ裸に剥かれて辻に曝され、農夫たちのいたぶりを受けて泣き叫ぶのを放置されているのだった。憂いを胸に歩みを進める一行の行く手には、冬を迎えたアルプスの美しい山々が神々しい姿でそびえ立っていた。