二人の女は寒さを忘れ、恐怖におののきながら、そこに、うずくまってしまった。
【14XX年10月31日】大飢饉に見舞われた十五世紀フランスのある秋の夜、ドーフィネ地方の深い森の中を二人の旅の女が彷徨っていた。イタリアはピエモンテの領主アスカミオ・ド・モンフェラ公爵の娘であるブランシュ姫は、はるか異国フランスを旅するさなか、森の抜け道を探しに行った家臣ファビオ・デル・ドンゴとはぐれ、ファビオの妹でもある侍女のクレリアとともに行き暮れてしまったのだ。先般、父の病の平癒を願ってアヴィニョンに巡礼に訪れた姫は、ドーフィネ地方デスノスの町に滞留しているという名医マチュラン・ピカールの話をさる修道僧から聞き、ピカールをピエモンテに迎えるためにデスノスに向かう途上であった。月に照らされる深い森の中、飛び交う蝙蝠の大群に怯えながら馬を進めていたブランシュとクレリヤは、森の奥から聞こえる祭のような楽の音に不安をつのらせた時、乗っていた馬たちに逃げられてしまう。木立の中に不気味な灯りを見出して近づいた二人は、乱れた服装に髪を振り乱した女たちが蝋燭を手にして彼方へ消えてゆくのを目撃する。万聖節を明日に控えて悪魔の宴(サバト)が催されていることを察した二人は、身を寄せ合ってうずくまりおののき慄える。どれほどかの後、ふいに近づいてきた山羊面の騎馬の一団が身を縮めている二人を見出し、恐怖のあまり気を失った旅の女たちをさらって駆け去った。
そんな小娘の誇りなど何とも思わない城主であることを、まして自分が黒ミサの犠牲として値ぶみされていることを、まだ若く世なれないブランシュに見抜くことができるはずはなかった。
デスノス城ではブランシュが城主の居間に迎えられ、これまでの旅のいきさつをブロン侯爵に話していた。拉致同然にして城に連れ込まれたものの、その後に手厚いもてなしを受けたことでいささか警戒をゆるめていたブランシュだったが、年齢や貞操まで聞き出そうとする城主侯爵の好色でぶしつけな質問に当惑し、憤りの色を隠せない。行方不明のファビオを捜索し医師ピカールも城に呼び出すと約束する侯爵の強引さに負けて、城への逗留を承諾したブランシュは、貴族の娘の誇りなど実際は意にも介さない邪悪な侯爵によって、十八歳の処女の身が黒ミサの生贄として値踏みされているなど思いもよらないのだった。
生贄に定めた姫の純潔に確信を抱いた侯爵は、旅の一行の行方が途絶えても手がかりが残らないことを確かめてプレラチとともに満悦し、騎士ファビオに捜索と暗殺の手を差し向ける。他方、デスノスに滞留して病人たちに慈善で施療していると評判の名医ピカールに対しては、錬金術の心得がまったくないと知って興味を失う。当夜に再度の黒ミサを期した侯爵は、気位の高い姫が全裸で祭壇に縛りつけられたときの悲嘆を思って胸躍らせながら、昨夜下げ渡されたマリヤを拷問室に連れ込んで責め苛んでいるフォラスの見物に向かう。姫の侍女クレリヤは主人の生贄の儀式に立ち会わされたうえ、首尾良く秘密を手に入れた暁にはプレラチに与えられることが約束された。
思いがファビオのことに触れると、自然に乳房がふくらんでくるのをどうしようもなく、ブランシュはひとりで頬を赤くした。
その夜、ブランシュは自室に特別にしつらえられた豪華な浴槽の中で湯のぬくもりにひたりながら、形のない不安にさいなまれていた。イタリア出身と知れた姫のためにわざわざ浴槽を運び込んでくれた城主の歓待ぶりに緊張をほどかれながらも、その日一日に城内で眼にした光景の数々に、処女の感受性はただならぬ異様さを感じ取っていたのだ。女中の類がほとんどいない城中でわずかに眼にした女といえば晩餐の席で家臣たちにはべっていた気品ある美女たちだけで、ブランシュが紹介された時のその憐憫と同情の入り混じった表情が奇妙な印象を残していた。そして侯爵に城内を案内されていた昼間に一室で行き会ったのは、若く美しい全裸の女を四つん這いにさせ首に巻きつけた鎖を引いて床の上を追い立てている小人フォラスの姿であった。背中に鞭痕を刻まれ乳ぶさを揺らして這いずりまわる女の腰には、処女の姫には眼にするのもおぞましい黒い鉄の貞操帯が嵌められていた。羞恥と嫌悪に身震いして眼を伏せ、小人のいやらしい視線で下からすくいあげるようにのぞき込まれて戦慄したブランシュは、やがて自身をも同じ境遇に落とそうともくろんでいる侯爵が、羞じらう乙女の姿に背後から好色な視線を浴びせていることを知るよしもなかった。
無垢の身を抱き締めるようにしておぞましい回想を振り払ったブランシュの思いは、いまだ行方の知れないという恋人ファビオの境遇へと移る。かつて一度だけ口づけを交わした身分違いの凛々しい若者の面影を追い、甘美な陶酔にふくらむ乳ぶさを抱いてひとり頬を染めていたブランシュの夢想は、しかし、クレリヤが控えているはずの衝立の陰で起こったただならぬ物音に破られる。再び不安に駆られて侍女の名を呼ぶブランシュの前に、衝立の陰から顔をのぞかせたのは、忍び笑いを浮かべた小人フォラスであった。驚愕し、タオルで胸を覆って浴槽にしゃがみ込んだブランシュの傍に歩み寄ったフォラスは、高貴の姫の甲高い叱声をものともせず、白い裸身を湯の中に縮めている姫の周囲を回って卑猥なからかいを浴びせかける。あまりの侮辱に声を失って慄えるブランシュの前で衝立が押しのけられると、姿の消えたクレリヤの代わりに、腰布だけをまとった四人の巨人の黒人奴隷が歩み出る。フォラスの命令で浴槽を肩に担ぎ上げた奴隷たちは、湯を張ったままで一つの輿と化した浴槽を、その中で悲鳴をあげる全裸の姫もろとも運び出していく。
のけぞった白いあご、むっくりと頭をもたげてかすかなふるえを見せている乳房、なだらかに起伏する腹、ほっそりとくびれた胴まわりから豊かに満ち張った腰、すんなり伸びた両足。
衝撃と恐怖のあまり茫然となってあらがう気力もないブランシュの裸体を乗せたまま、黒人奴隷たちの担ぐ浴槽は黒魔術の塔の最上階の部屋へと運び上げられた。黒衣をまとったプレラチに迎えられ、恐ろしい儀式の道具に取り囲まれた暗い部屋の中央に浴槽を降ろされたブランシュは、タオルでわずかに隠れた裸に鳥肌を立ててわななきながら無言の僧を問い詰めののしる。暗がりから姿を現した侯爵を眼にして憤りを噴出させたブランシュだが、激しい非難と抗議を不遜な冷笑であしらわれ男たちの冷酷な視線に射すくめられて、貴族の娘の誇りをくじかれていく。けがらわしい黒ミサの生贄にされると知って慄えるブランシュの傍には猿轡をされた侍女のクレリヤが椅子に縛られて据えられ、あるじの姫が純潔を穢されるのを見せつけるよう仕立てられていた。幾重もの辱めを前にして絶望にすすり泣くブランシュは、侯爵の命令を受けた四人の黒人奴隷にタオルをむしり取られ、浴槽から担ぎ上げられた裸体を祭壇の生贄台に仰向けに転がされ縛りつけられていく。泣き叫んで抵抗する処女のか弱い両手と両足が容赦なく引き伸ばされ拡げられ、いましめの縄を食い込まされて、ほのめく灯火の中に白く美しい生贄の裸体をさらけ出した。黒人奴隷を下がらせた後でプレラチは儀式の準備にかかり、黒い死蝋の蝋燭を燭台代わりに生贄の肌の上に立てていく。慄える双の乳首、くぼんだ腹、わななく両脚に蝋燭を立てられて肉の燭台と化した姫は、苦悶の身悶えにつれて滴る熱蝋に肌を灼かれて悲鳴を噴きこぼす。だが、明かりを消された室内に妖しく浮かび上がるブランシュの裸体を囲んでまさに黒ミサが始まろうとした時、思いもかけぬ発見を告げるために駆け込んできたフォラスが儀式を中断する。ブランシュを連れ去らせたあと姫が脱ぎ残した下着の間をまさぐっていたフォラスは、アヴィニョンの修道僧から名医ピカールに宛てて姫に託された極秘の手紙を、姫の守り袋の中から見出したのであった。マチュラン・ピカールが変名だと露見しつつあることに注意を促すその手紙は、ピカールの正体が、「賢者の石」の秘密をただ一人解き明かしたと噂され、今は身を隠して慈善のために全国を遍歴している高名な錬金術師ニコラ・フラメルであることを告げていた。思いがけぬ巡り合わせに狂喜した侯爵は、失神寸前のブランシュの頬を張り飛ばして手紙を預かったいきさつを聞き出し、翌日にもピカールを城に召し出すための策をプレラチとともに練る。もはや黒ミサの必要がなくなったいま、大の字の裸体をさらけ出している美しい姫の立場は、サタンへの生贄から淫虐な侯爵の花嫁へと変わった。いましめを解かれて再び後ろ手に縛られていくブランシュは悲痛に哀願しながら、花嫁として素っ裸を家臣たちの曝しものにされたあと一晩中侯爵のなぶりものにされることを告げられ、身を揉んで泣きじゃくる体を引きたてられていく。椅子に縛られたまま部屋に残されたクレリヤにはプレラチが歩み寄り、無念に忍び泣く侍女の美貌を覗き込む。荒々しく胸元を引き裂かれ、縄目の間に剥き出しにされた乳ぶさにおぞましい愛撫を這わされていきながら、可憐な侍女もまた汚辱の夜を迎えようとしていた。
姫は乳房を震わせ、腰をよじって身悶えた。
【11月2日】恥辱と悔恨にうなされるかのような苦しい眠りのなかで、ブランシュは青空の下で真っ裸を宙空で磔柱に架けられ、ひしめく見物人の群れに好奇の眼で見上げられていた。手足を拡げたあられもない姿で熱っぽいどよめきに囲まれ、鈍磨しきった羞恥の感情の底でなおも屈辱にまみれて腰をよじる姫は、見物人の中にファビオの顔を見出して泣き叫ぶ。群衆の卑猥な嘲笑を浴びて裸身を慄わせる姫の眼前に、破瓜の血が染みたハンカチがファビオの手で突きつけられるところで夢は途切れる。
疲弊しきった体で目覚めたブランシュの脳裏に、夢ではなく、実際に昨夜味わわされた屈辱の数々が甦る。広間の柱に全裸を縛りつけられて家臣たちの好色な眼に曝され、競売される奴隷のように口々に女体を批評されて泣きむせんだブランシュは、それから侯爵の寝室に引き立てられ、明け方近くまで侯爵の獣欲に翻弄され穢し尽くされたのだった。自分の運命の暗転に絶望し、ベッドの隣で満悦しきって眠っている侯爵を横目に裸のままベッドから降り立ったブランシュは、鈍痛の残る下肢を引きずって侯爵が脱ぎ捨てた衣服に歩み寄り、黄金造りの短剣を手に取る。しかし侯爵の無防備な胸に憎しみのままに凶器を振り下ろそうとした間際、部屋の隅に置かれた茶色のフェルト帽がブランシュの注意を奪った。それがファビオの帽子であることを確かめたブランシュはファビオの死を確信し、殺意も忘れて帽子を掻き抱いたまま泣きむせぶ。いつしか目覚めた侯爵が、捜索に出向いた家来が見つけてきたものだと言い繕いつつ高笑いする。帽子の陰に短剣を隠して侯爵に歩み寄ったブランシュは、恋人を殺して自分の処女を奪った男に憎しみの刃を振りかざして突進するが、左手に深手を負いながらも間一髪でかわした侯爵にねじ伏せられてしまう。男の力に組み伏せられ、殺せとまで口走ってののしり叫ぶブランシュを冷たく見降ろしながら、侯爵は苦痛と憎悪に顔を歪めて、死よりもつらい責め苦を美しい娘に与えようと宣告するのだった。
ブランシュは観念の眼を閉じて、自分の体が宙吊りにされてゆくがままにまかせている。
傷の手当てをして朝食を済ませた侯爵は、前夜の晩餐に同席した七人の女奴隷を伴って城の地下にある拷問室に降りる。かつては侯爵に攻め滅ぼされた敵国の姫だった女奴隷たちは、それぞれ最初にそこに連れ込まれて責められ、侯爵の膝下に這いつくばって屈服したいまわしい屈辱の記憶を呼び覚まされておののく。地下牢に接する広い地下拷問室は、侯爵の嗜好にかなうべく、拷問台・車輪・X字架・木馬・枷・鎖にはじまるありとあらゆる責め具を備えられていた。一メートル四方に満たない小さな鉄の箱が女たちの前で開けられると、黒い革紐で窮屈な後ろ手あぐら縛りにされ、白い裸体を縦横に締め上げられて一個の肉塊と化したブランシュ姫が転がり出てくる。窮屈な箱詰めにされたまま処罰の時を待たされていたブランシュは、侯爵に足蹴にされ、全身から苦悶のあぶら汗を絞り出しつつ革紐をきしませて呻き喘ぐ。新入りの女の無惨な姿の周囲に呼び寄せられておそろしげに見降ろす七人の女奴隷は、一人ずつ名指しされて、自分が受けた責め苦のなかで最もつらい責めを問いただされる。女たちはかつて皆、戦勝に酔う兵士たちの間を全裸で引き回され、木馬に乗せられ、吊られ、くすぐられ、女の羞恥と誇りを無惨に引き裂かれて侯爵に屈服した者たちばかりなのだ。侯爵の命令でいましめを解かれたブランシュは、一メートルほどの鉄棒の両端に手首を結びつけられ、天井から垂れる鉤で吊り上げられていく。あらがう気力もなく観念の眼を閉じたブランシュの華奢な体が宙吊りに引き伸ばされ、両手に全体重をかけつつ床を離れてぶら下がる。頭をのけぞらせ爪先を痙攣させて苦悶するブランシュは、はかない悲鳴と抵抗を無視して宙に浮いた両足首をも鉄棒の両端にくくりつけられ、あさましいX字の吊り姿を一同の前にさらけ出して、すすり泣きながら美しい裸体を宙に伸びきらせる。自分を傷つけた憎い女の無惨な全裸宙吊りを臨んで腰を降ろした侯爵は、女奴隷たちに羽根や刷毛を受け取らせ、目の高さに白い腹をさらけ出している生贄の肉を一斉にくすぐらせる。女の体の急所を知り尽くした狡猾ないたぶりを、脇腹に、臍に、腰に、足の裏に、寄ってたかって這わされて、泣き笑いに似た絶叫を迸らせながら総身を痙攣させて宙に跳ねまわるブランシュの裸体。取り囲む女たちの頭上で身悶えるブランシュの上半身は、乱れ髪を振りたて、あぶら汗を噴き、尖った乳首を慄わせつつ、悲鳴を絶息するような喘ぎに変えていく。光を失ってとめどなく哀願の涙を流すブランシュの弱りぶりに屈服を認め、侯爵が姫の体を吊りから降ろさせようとするのを、駆け込んできたフォラスが未練がましく引き止め、さらにフォラスに呼びにやらせていたプレラチが、全裸を後ろ手に縛られ腰に貞操帯を嵌められたクレリヤの縄尻を引いて現れる。屈辱の運命もあらわな互いの裸身を目の当たりにし、残酷な主従再会に激しく泣き交わす姫と侍女。だが、フォラスは慟哭する主従の悲嘆のさまを嘲笑うようにブランシュの足首に張り渡された鉄棒に腰を掛け、姫の号泣を、手首に食い込むすさまじい重さに耐えかねての絶叫へと変える。縄の食い込んだ手首から血を流しあぶら汗を噴いた全身を痙攣させて許しを乞う姫の苦しみを意にも介さず、鉄棒に腰掛けた小人は頭上をまたぐように拡げられた女の脚につかまって、白い肉をブランコのように乗りこなす。嘲るようなフォラスの小唄に、ブランシュの悲痛な呻きと鎖のきしみが交錯する凄惨な拷問図絵。あまりの酷さに飛び出そうとしたクレリヤはプレラチに縄尻を引かれて転がされ、乳ぶさに鞭を振り下ろされる。失神寸前の苦痛に弱々しく喘ぐばかりとなった姫の体が侯爵の命令でようやく降ろされ、床に伸びきった体が仰向けに転がされる。侯爵の足に服従の口づけを命じられたブランシュはボロボロの体を起こして侯爵の足元に跪き、ひそやかな嗚咽を洩らしつつ、侯爵の革長靴を抱き締めて唇を押しつける。ピエモンテ領主ド・モンフェラ公の娘、気丈で美しかった十八歳のブランシュ姫は、いま拷問室の床に全裸を這いつくばらせ、侍女や下劣な男たちが見守るなか、自分の処女を奪った、殺そうとまで憎んだ男に服従を誓わされたのだ。完全に屈服を遂げた女をさらに辱めようとする侯爵によって貞操帯の装着が命じられると、黒人奴隷に引きずり起こされた姫は泣き叫び哀願しながら、つい昨日は処女の嫌悪をもって顔をそむけたあさましい鉄の装具を、剥き出しの我が身に装着されていく。後ろ手の手枷、鎖で短く繋がれた足枷、首輪までもつけられ、首輪から伸びる鎖の端を黒人の手に握られて立たされたブランシュの姿は、すでに気位の高い貴族の娘ではなく、白い肉の奴隷へと変わり果てていた。奴隷の調教のためブランシュとクレリヤの身がフォラスの手に預けられた時、折しも遣わされていた使者が戻り、医師ピカールを同行したことを告げる。遠国まではるばる訪ねてきた目当ての人物の名をここで聞いても、もはやブランシュには為すすべもなく、足鎖を引きずりながら、クレリヤとともに裸身を引き立てられていくことしかできないのだった。
感情を失った瞳を大きくあけて、姫は乾いた唇で、ファビオの名を繰り返し呼んでいた。
デスノス城の地下牢に囚われたファビオは、足枷を牢の床の鉄輪につながれて閉じ込められた絶望的な状況のもとにありながら、なおもブランシュ姫とクレリヤを救い出すことに望みを巡らせていた。二人の黒人の牢番が現れてファビオに手枷をかけ、牢から引き出して大広間へと曳いていくと、明るいシャンデリヤに照らされた広間には城主のブロン侯爵と十数人の家臣たちが、傍らに女を侍らせて豪勢で淫らな饗宴に打ち興じていた。ファビオの登場で静まりかえった宴席の城主のそばの主賓席には、ピカールとラミアが事の成り行きを不安げに見守る。黒人奴隷に左右から動きを押さえられ、姫と妹の姿がその場にないことを見て取って失望するファビオ。ブロン侯爵はファビオの勇猛さを誉めそやしてみせつつ、宴席の余興に剣技での決闘を演じて見せるよう家臣たちをあおりたてる。残酷な座興に不安をつのらせるラミアを気づかいつつ、ファビオは侯爵と家臣たちを挑発する。ファビオを倒した者に、つい前夜に全裸のお披露目をさせられた姫を与えると侯爵が約すして家臣たちの興奮を巻き起こすと、その喧噪のなか、侯爵の背後の扉からフォラスに曳かれてブランシュ姫が連れ込まれる。全裸の体に後ろ手の手枷と鎖のついた足枷を課され、腰に固く食い込んだ貞操帯と鋲を打った黒革の首輪だけをまとわされて、首輪の鎖を犬のように曳かれながらよろめき歩くという、女として見るも浅ましい奴隷の姿を曝しながら、引きずられるようにして侯爵の背後のひときわ高い台上に立たされ、満座の視線を浴びせられるブランシュ。金髪の頭を深々とうなだれ、羞恥でうなじまで染めて丸い肩先を小刻みに慄わせている均斉のとれた白い裸は、つい先夜の処女としての激しい抵抗の名残もなく、苛烈な辱めの前に貴族の娘はおろか女の誇りまで完全に明け渡した痛ましい屈服の姿にほかならなかった。がっくりと顔を伏せた姫の金髪を小人が背後から掴んで引っ張り下ろし、恥辱に固く眼を閉じた美貌を仰向けにさらけ出すと、それが愛するブランシュ姫と見知ったファビオは激昂の絶叫を噴き上げ、愛する恋人の姿を認めた奴隷姿の姫は絶句して気を失う。ブロン侯爵は無惨な主従再会の愁嘆場を嘲笑いながら、クレリヤもが家臣に与えられたことを告げてファビオの怒りを煽りたてる。ブランシュ姫の美しい肉体に魅惑されて名乗りを上げた家臣たちとの決闘が、槍を構えて居並んだ兵士たちに囲まれた広間の中央で始まる。失神から目覚めさせられて柱に立ち縛りにされ、フォラスに短剣を擬せられたまま、感情を失った瞳を見開いて恐ろしい座興を見せつけられるブランシュ姫。だが、枷をはずされて愛剣を渡されたファビオは左脚の怪我をものともせず、イタリアでも名高い剣技を発揮して武骨なフランスの武士を二人たてつづけに屠り去る。家臣たちの重苦しいどよめきを受けつつ、姫を救い出す算段にファビオが思いを巡らせているとき、決闘を見守るフラメルとラミアの隣では、城内で密偵の女を捕らえたとの報告がブロン侯爵のもとにもたらされる。興味をそそられた侯爵は決闘を中止させ、なおも意気軒昂なファビオを適当にあしらって広間を後にする。侯爵に続いてフォラスに引かれていくブランシュ姫のうなだれた姿に励ましの声をかけ、フラメルとラミアを力づけながら、ファビオは再び枷を課されて地下牢へ連れ戻されていく。それを見送るフラメルは、頼みのマルグリットが捕らわれたことを覚って、残された手だてに必死で考えを巡らせていた。
ブランシュ姫は貞操帯を腰にまとっただけの裸身を床の上に四つん這いにさせられ、首輪につけた手綱をフォラスに取られて、床の上をはいずりまわっていた。
厩の火事を引き起こしたのはマルグリットであった。拷問室から引き出された後ピエールによって厩で凌辱されたマルグリットは、一揆軍が突入した頃、汚された肉体に残る汚辱の名残をおぞましく感じながら、両手を上に伸ばして柱にくくりつけられた裸体を藁の上に転がされて虚ろな思いに捉えられていた。秘密を洩らしたうえに処女の身を賤しい下男に汚されて生き抜く誇りを失ったマルグリットは城もろともおのが身を焼き滅ぼすことを願い、台の上にゆらめく蝋燭を藁の上に蹴落とす。隣で目覚めてはね起きたピエールに固くしがみついて道連れにしつつ、マルグリットの意識は遠のいていく。いっぽう、城内を次々と制圧した一揆軍は、大広間で衛兵頭ゴタールに行く手を阻止されて苦戦していた。ジャンに救い出されて愛剣を取りもどしたファビオが進み出てゴタールに打ちかかり、激しい斬り合いの末に巨漢の衛兵頭を打ち倒したことで、戦いの形勢は完全に決まった。
この期に及んでもブロン侯爵の寝室では、ブランシュ姫が、昼から続いた幾多の責め苦の総仕上げであるかのように、侯爵とフォラスによって責められていた。貞操帯ひとつの裸身を四つん這いに床に這わされた姫は、そのか弱い背にフォラスをまたがらせて、牝馬さながらに追いたてられて這いずりまわらされる。首輪についた手綱を引き絞られて涙に濡れる美貌を仰向かされ、下向きに垂れた乳ぶさを揺らし、侯爵の鞭で打ちたたかれた尻に赤い鞭痕を刻みながら、悲痛な悲鳴と哀訴を絞って這いまわるブランシュ姫。駆けつけてきた配下から急を告げられ、思いもかけぬ敗北と破滅に激昂する侯爵。主を見捨てて逃げ出そうとしたフォラスを怒りに任せて叩き切った侯爵のもとに、ファビオが現れる。激しい斬り合いのさなか、ファビオの背後に忍び寄った衛兵が繰り出した剣は、あやうく身をかわしたファビオを逸れて侯爵を貫く。同時に駆けつけたジャンが衛兵を切り捨て、死に瀕した侯爵に積年の恨みを告げつつとどめを刺した。戦いは果てたが、シーツに身を包んで泣き伏すブランシュ姫のかたわらで、ファビオは慰めの言葉もなく立ち尽くすしかなかった。
【十二月】一か月後、ピエモンテを目指してドーフィネの山中を越してゆく騎馬の一行は、名医ピカールと娘のラミアを伴ったブランシュ姫とファビオ、クレリアたちであった。ブロン侯爵は滅びプレラチも処刑されて、正統の領主ジャンの治世が回復しても、デスノス城で悪夢の刻を過ごした女たちの心には深い傷痕が刻まれていた。愛しい恋人の前に惨めな奴隷姿を曝して姫の威厳を失ったブランシュ、城中で使われた淫らな香によって女の官能を目覚めさせられ疼く肉体を持てあますクレリヤ、そして貞操帯を嵌められた全裸の姫の姿を脳裏から追い払えないファビオ。ただ一人の処女であるラミアは報われることのないファビオへの想いを胸に苦しみ、ピカールことフラメルは、マルグリットの死を知って以来暴君へと変じたジャンの圧政のさまを思って心を痛める。一行が進む道々には、かつての領主たちの妻や娘が素っ裸に剥かれて辻に曝され、農夫たちのいたぶりを受けて泣き叫ぶのを放置されているのだった。憂いを胸に歩みを進める一行の行く手には、冬を迎えたアルプスの美しい山々が神々しい姿でそびえ立っていた。