ジャンの妹といえば、世が世ならば領主の姫である。
ラミアの目を盗んで赤猫亭を抜け出し姫と妹を探すために森へ舞い戻ったファビオは、深傷に痛む体をかろうじて支えながら、手がかりもない深い森の中で途方に暮れていた。鷹に襲われていた伝書鳩を気まぐれで助けたファビオは、その場に現れて手紙の名宛人と申し出た羊飼いのジャンと知り合う。賎しからぬ人品を伺わせる若者は、折しも森の中に現れた城の役人たちからファビオの身を隠れさせるとともに、ブランシュ姫とクレリヤがデスノス城にいること、ファビオを殺すために捜索の手が繰り出されていることを告げる。事態のただならなさに緊迫するファビオに対して、羊飼いは、現領主の甥にしてデスノス城の正統の後継者ジャン・ド・ブロンだと素性を明かした。
赤猫亭に戻って再び手当てを受けたファビオは、公子ジャン、医師ピカール、その娘ラミア、ジャンの腹心ピコらに囲まれ、ジャンが企てている反乱の計画を聞かされる。ブロン侯爵の暴政に苦しむ百姓たちの支持を得た正統の嗣子ジャンは、女中に扮して城内に潜入させた妹マルグリットから伝書鳩で情報を得つつ、蜂起の機会をうかがっていたのだ。ジャンは、好色なブロン侯爵が美貌のブランシュ姫を我がものとするためにファビオに刺客を差し向けたものと推測して、ファビオの利害が反乱軍と一致していることを説く。かつて城にさらわれた女たちが町はずれの洞窟に住む病者たちに下げ渡されていた事実を告げるピカールの証言も、事態の急迫を裏付けていた。ピカールをピエモンテへ伴うためにも反乱軍への加担を決意したファビオは、恋するブランシュ姫の身に今夜にも迫っている貞操の危機を気づかい、数日後の決行の予定さえ待ちかねる思いを抱きながら、まだ為すすべもないのだった。
マルグリットは長いスカートをひるがえして駆け出した。
城主の病気を告げる城からの使者に連れられ城内の一室に案内されていた医師ピカールは、贅沢な調度に囲まれた室内で延々と待たされながら、その口実に疑念をつのらせていた。やがてプレラチを伴って現れた侯爵の興奮冷めやらず病気のそぶりもない様子に対して、皮肉を含んだ難詰を向けるピカール。悪びれもせずに嘘を認めた侯爵は、大学者ニコラ・フラメルを召し出すという真意を明かし、とぼけようとするピカールに修道僧からの手紙を突きつける。内心動揺しつつも自分の正体を認めたピカールは、私信を開封した侯爵の不作法を責め、手紙をもたらした使者に会えないと知って直ちに立ち去ろうとする。領主への恐れのかけらもない尊大な振るまいに激怒しながらも医師を引き止める侯爵。領内の住民の困窮を救うために錬金術の秘密が必要だと言い向けられたフラメルは激しく憤り、普段から領民を苦しめるばかりの侯爵の暴政を厳しく糾弾する。激昂して抑制をかなぐり捨てた侯爵はフラメルの美しい娘に破廉恥な拷問を加えるとほのめかして責めたてるが、大学者の固い信念と信仰を曲げることはできなかった。昂然と頭を起こして怯むことのないフラメルを地下牢へ連れ去らせながら、侯爵はラミアを捕らえさせる命令を聞こえよがしに発する。このとき、女中として城内に潜んでいたマルグリットが地下牢へ連れ去られるフラメルを目撃し、兄のジャンに急を告げる伝書を放つ。
引き裂かれた白い木綿の粗衣の下から、陽焼けした顔や手足からでは、まったく想像もつかないような、ゆで玉子の白身を思わせるつややかな肌があらわになった。
ブランシュを屈服させラミアを泣き叫ばせた拷問室に、この日みたび足を運んだ侯爵を、衛兵頭のゴタールが迎え出る。おぞましい拷問の新たな生贄となるべき女中マルグリットは木椅子に縛りつけられ、自責の念で引きしまった顔を深くうなだれて金髪で隠していた。髪を掴んで顔を上げさせられたマルグリットは、眼を閉じて表情を殺した美貌を侯爵の鞭の柄で小突きまわされる。一揆の決行を明日に控えたジャンから求められて城内の状勢と備蓄のありかを記した伝書を放とうとしていたマルグリットは、かねてから言い寄られていた下男ピエールにその姿を見咎められたことから、正体を知られ捕らわれてしまったのだった。汚らわしい男のために企みを暴かれたうえ敵に捕らわれて無念に悶えるマルグリット。侯爵の前に呼び出されたピエールは、懸想していた美しい女中を痛めつけて訊問する役目を許されて勇躍する。屈辱に蒼ざめるマルグリットにふてぶてしく言い寄ったピエールは、誇りも露わに厳しい口調で罵倒し返したマルグリットに怒りを掻き立てられ、本来の凶暴さを剥き出しにしてマルグリットを椅子ごと突き飛ばす。いましめを解かれたマルグリットは逞しい男の手の中でむなしくあらがいながら、髪を掴んで引きずり起こされ、粗衣を胸元から引き裂かれる。あらわになった胸を両手で隠し、床に打ち伏せて白い背肌をさらけ出したマルグリットは、両手を背中にねじ上げられ髪を掴んで引きずり立たされ、豊かに実った乳房を弾ませながら、ド・ブロン侯爵家の血を引く白く輝く裸身をさらしものにされる。木肌剥き出しの拷問寝台に仰向けに横たえられ、四肢を拡げてくくりつけられたマルグリットは、二つの丸い穴をくり抜いた幅広の革の乳枷を胸に巻きつけられ、美しい乳房を絞り出される。おぞましい拷問具に拘束されて恐怖に身震いする女体への拷問が始まり、拷問寝台の仕掛けで四肢を極限まで引き伸ばされた白い裸体は関節を鳴らし白い腹を痙攣させて苦悶する。虚空を掻きむしって苦悶するマルグリットの胸に嵌った乳枷の、乳房を取り巻く丸い穴が締め上げられて、絞り上げられたふくらみが上向きにそそり立ち充血する。絶叫しあぶら汗を噴いて苦悶する女体を冷酷に見降ろしながら、一揆の首謀者を訊き出そうとする侯爵は、強情を張り通すマルグリットへの鞭打ちを命じる。ピエールの逞しい腕で力いっぱい振り降ろされた鞭が伸びきった白い腹に弾け、激痛に泡を噴いてのたうつマルグリット。鞭痕から血を噴き出させ、恥と苦悶に狂乱して意識まで朦朧となった高貴の姫は、再び鞭をたたき込まれると意地を張りとおす気力はすでになかった。充血した乳房を揺らしながらマルグリットは侯爵の訊問に答えて、一揆の首謀者を「シャランのジャン」と、決起の時刻を明日の夕刻と白状させられる。満足しきった侯爵はその言葉に混じった嘘に気づかず、マルグリットの体をピエールに与えて拷問室を後にする。拷問寝台の上に裸の四肢を拡げてさらけ出し、責めあげられた乳房を紫色に充血させ、鞭痕の残る白い腹をひくつかせて伸びきったド・ブロン侯爵家の姫マルグリットには、もはや領主の娘としての一片の誇りも残されず、与えられた任務を果たせず秘密まで洩らさせられたあげくに粗暴で汚らわしい下男のなぐさみものとされる、汚辱の初夜だけが待っているのだった。
(マルグリットに、もしものことが起こっているのでなければよいが……)
赤猫亭に集まったジャンやピコらの一味はマルグリットからの連絡がないことに不安を募らせながら、更けていく夜の中で決起を目前に控えた重苦しい沈黙におちいっていた。城の動きを気にかけるジャンのもとに、黒魔術の塔から煙りが上がっていることが見張りの者から知らされる。かねてピカールと示し合わせていた秘密の連絡手段であったその煙は、計画の露見と危急とを告げるとともに、ジャンたちには解読不能な紫色の煙をも伴っていた。マルグリットの捕縛を確信したジャンはただちに決断を下し、シャラン襲撃の兵を遣わす。デスノス城から闇夜にまぎれて発したシャラン領主と思しき一行の姿を察知した一揆軍は、シャラン街道をひた走る一隊が森を抜けたところで襲いかかり、急襲に動転する兵士たちを包囲し壊滅させる。シャラン襲撃成功の報を受けて緒戦の勝利に満足するジャンのもとに、町はずれの洞窟に棲む病者たちが現れ、意外にもピカールからの伝言をもたらした。城から立ち昇る紫色の煙はピカールから病者たちへの連絡手段だったのだ。一揆の計画を知って急ぎ領地へと戻っていく領主たちがデスノス城に置き去りにしていった女たちを下げ渡すため、病者の一団が城内に呼び込まれようとしていた。ピカールの真意を悟ったジャンは部下たちとともに病者に変装し、城に入り込む千載一遇の機会を抜け目なく利用する。伝染病者の一行をおそるおそる裏門から招き入れたデスノス城の番兵たちはたちまち倒され、一揆軍はジャンの手引きで次々と城内に侵入していった。牢番たちが捕らわれの女たちを好きずきに辱めている地下牢に乗り込んだジャンは、油断しきっていた牢番たちを切り捨て、囚われていたファビオを救い出す。ジャンとファビオがブロン侯爵への報復を競い合いつつ、ピカールとラミアの姿を探しに向かおうとしたとき、城の厩からは火の手があがっていた。
マルグリットは、上に伸ばして柱にくくりつけられた両手の痛みよりも、死んだはずの肉体に今も残っているこの名残りがくやしかった。
厩の火事を引き起こしたのはマルグリットであった。拷問室から引き出された後ピエールによって厩で凌辱されたマルグリットは、一揆軍が突入した頃、汚された肉体に残る汚辱の名残をおぞましく感じながら、両手を上に伸ばして柱にくくりつけられた裸体を藁の上に転がされて虚ろな思いに捉えられていた。秘密を洩らしたうえに処女の身を賤しい下男に汚されて生き抜く誇りを失ったマルグリットは城もろともおのが身を焼き滅ぼすことを願い、台の上にゆらめく蝋燭を藁の上に蹴落とす。隣で目覚めてはね起きたピエールに固くしがみついて道連れにしつつ、マルグリットの意識は遠のいていく。いっぽう、城内を次々と制圧した一揆軍は、大広間で衛兵頭ゴタールに行く手を阻止されて苦戦していた。ジャンに救い出されて愛剣を取りもどしたファビオが進み出てゴタールに打ちかかり、激しい斬り合いの末に巨漢の衛兵頭を打ち倒したことで、戦いの形勢は完全に決まった。
この期に及んでもブロン侯爵の寝室では、ブランシュ姫が、昼から続いた幾多の責め苦の総仕上げであるかのように、侯爵とフォラスによって責められていた。貞操帯ひとつの裸身を四つん這いに床に這わされた姫は、そのか弱い背にフォラスをまたがらせて、牝馬さながらに追いたてられて這いずりまわらされる。首輪についた手綱を引き絞られて涙に濡れる美貌を仰向かされ、下向きに垂れた乳ぶさを揺らし、侯爵の鞭で打ちたたかれた尻に赤い鞭痕を刻みながら、悲痛な悲鳴と哀訴を絞って這いまわるブランシュ姫。駆けつけてきた配下から急を告げられ、思いもかけぬ敗北と破滅に激昂する侯爵。主を見捨てて逃げ出そうとしたフォラスを怒りに任せて叩き切った侯爵のもとに、ファビオが現れる。激しい斬り合いのさなか、ファビオの背後に忍び寄った衛兵が繰り出した剣は、あやうく身をかわしたファビオを逸れて侯爵を貫く。同時に駆けつけたジャンが衛兵を切り捨て、死に瀕した侯爵に積年の恨みを告げつつとどめを刺した。戦いは果てたが、シーツに身を包んで泣き伏すブランシュ姫のかたわらで、ファビオは慰めの言葉もなく立ち尽くすしかなかった。
【十二月】一か月後、ピエモンテを目指してドーフィネの山中を越してゆく騎馬の一行は、名医ピカールと娘のラミアを伴ったブランシュ姫とファビオ、クレリアたちであった。ブロン侯爵は滅びプレラチも処刑されて、正統の領主ジャンの治世が回復しても、デスノス城で悪夢の刻を過ごした女たちの心には深い傷痕が刻まれていた。愛しい恋人の前に惨めな奴隷姿を曝して姫の威厳を失ったブランシュ、城中で使われた淫らな香によって女の官能を目覚めさせられ疼く肉体を持てあますクレリヤ、そして貞操帯を嵌められた全裸の姫の姿を脳裏から追い払えないファビオ。ただ一人の処女であるラミアは報われることのないファビオへの想いを胸に苦しみ、ピカールことフラメルは、マルグリットの死を知って以来暴君へと変じたジャンの圧政のさまを思って心を痛める。一行が進む道々には、かつての領主たちの妻や娘が素っ裸に剥かれて辻に曝され、農夫たちのいたぶりを受けて泣き叫ぶのを放置されているのだった。憂いを胸に歩みを進める一行の行く手には、冬を迎えたアルプスの美しい山々が神々しい姿でそびえ立っていた。