林達明をはじめとする県政界・教育界の有力者たちがことごとく逮捕起訴されたことをもって一連の政争がようやく終息に向かいつつあった春の折、但馬老人は太郎と千秋、そして三月を持って教職を辞した圭吾とともに慈恩寺の光覚和尚を訪れていた。和尚の作った磔柱を借り出す算段をつけるいっぽうで、遠大な陰謀にようやく決着をつけた但馬老人は、圭吾を跡継ぎに据えて千秋との交歓に戯れる自適の生活へと心を傾け始めていた。くつろいだ雰囲気のなか、和尚の傍らにつつましく控える奈美夫人をからかいながら、一同は和やかなひとときを過ごすのだった。