薔薇色に色づいた乳首が、ぷりぷり躍動する双丘の頂に固くしこって行った。
その夜、デスノス西方の丘陵に建つ領主シャルル・ド・ブロン侯爵の居城では、領内の諸侯を招いた豪勢な饗宴が開かれていた。城主侯爵をはじめとして十数人皆が悪魔の面をつけ、豪奢な料理を食い散らかした果ての奇妙な宴席に、黒人奴隷たちが丸い蓋のついた巨大な銀色の皿を一人あて運び込んでくる。侯爵の合図で蓋が取りのけられると、それぞれの皿の上には、手足を折り曲げて縛られた裸の若い女が、猿轡を噛まされ恐怖に眼を見開いて盛りつけられていた。森の中のサバトに誘い出された女たちが闇に乗じて城へとさらわれ、諸侯をねぎらうための生贄に供されていたのだ。歓声とともに女たちに取り付いた諸侯は、黒人奴隷の助けを借りて悲鳴をあげる女たちの美肉をむさぼっていく。男を愉しませることができずに用済みになった女は、町のはずれの洞窟に住みつく病者たちに投げ与えられて生き血を絞られる運命にあった。淫らな饗宴をひとり冷ややかに睥睨する侯爵のもとに、赤黒だんだらの胴着に三角帽子を着けた小人フォラスが現れる。命じられた儀式の用意が整ったことを告げられた侯爵は、淫らな饗宴をそのままにしてフォラスとともに広間を後にする。
デスノス城の東の一角にそびえる天主閣「黒魔術の塔」の最上階にある円形の部屋には、悪魔じみた儀式のための祭壇と数々の器物が備えられていた。フォラスを伴って現れた侯爵を、お抱えの錬金術師フランソワ・プレラチが出迎える。部屋の隅には小綺麗な衣裳の若い娘が、猿轡をされ手足を縛られた姿で恐怖に眼を見開いて転がされていた。悪魔の儀式の生贄される葡萄酒商人ジュールの娘マリヤはすでに白い下穿きをフォラスに奪われ、生贄にふさわしい生娘であることを確かめられていた。男三人がかりで生まれたままの姿に剥かれたマリヤは、恐怖のあまり抵抗のそぶりもない裸身を祭壇の上に仰向けに伸ばされ、手足に革紐を掛けまわされて大の字に磔にされる。祭壇をまたいで大きく開いた膝と左右に伸ばした腕を固定され、細腰と乳ぶさの上を縛りつけられてもはや寸分も身動きできぬまま、猿轡を噛まされた頭を台の端からのけぞらせて振りたてるしかない娘の白い裸体を前に、禁断の黒ミサにとりかかるプレラチ。香炉からたちのぼる異様な香りが立ちこめるなか、祭壇の四隅の燭台に立てられた黒い蝋燭に火がともされ、照らし上げられた生贄の白い腹の上に逆しまの十字架が置かれると、プレラチは悪魔への祈りを捧げつつ「賢者の石」の製法を乞い求め、聖体パンを生贄の股間に押し込む。香炉とパンに仕込まれた秘薬ベラドンナの効果により、やがて憑かれたように総身をうねらせて娘が身悶え始めると、侯爵は猿轡を取り去った生贄の腹に鞭をたたきつけ、絶叫する娘の口から悪魔の秘密を聞き出そうとする。激しい鞭打ちに白い腹を血に染めながら苦痛に陶酔して総身を反り返らせ、錯乱した言葉を口走る処女の生贄は、しかし、非金属を貴金属に変えるという「賢者の石」の製法の秘密をついに明かすことなく消耗しきっていく。ミサの失敗に失望したプレラチが、より高貴な血をもった処女を生贄に捧げる必要があることを申し立てると、フォラスは、今夜折しも城に連れ込まれた二人の旅の女が、その高貴な風貌ゆえに狼藉をはばかられて城内に介抱されていることを告げる。執念に狂った侯爵は、どこの高貴の姫とも知れぬその女たちを次の生贄とすることを決意し、不安がるプレラチを一蹴したうえ、用済みとなったマリヤをフォラスのなぶりものとして与える。
「昨夜は、あれから奴隷も呼ばず、自分で女を縛り上げ、首に縄を掛けて引いて行きましたが――」
デスノス城ではブランシュが城主の居間に迎えられ、これまでの旅のいきさつをブロン侯爵に話していた。拉致同然にして城に連れ込まれたものの、その後に手厚いもてなしを受けたことでいささか警戒をゆるめていたブランシュだったが、年齢や貞操まで聞き出そうとする城主侯爵の好色でぶしつけな質問に当惑し、憤りの色を隠せない。行方不明のファビオを捜索し医師ピカールも城に呼び出すと約束する侯爵の強引さに負けて、城への逗留を承諾したブランシュは、貴族の娘の誇りなど実際は意にも介さない邪悪な侯爵によって、十八歳の処女の身が黒ミサの生贄として値踏みされているなど思いもよらないのだった。
生贄に定めた姫の純潔に確信を抱いた侯爵は、旅の一行の行方が途絶えても手がかりが残らないことを確かめてプレラチとともに満悦し、騎士ファビオに捜索と暗殺の手を差し向ける。他方、デスノスに滞留して病人たちに慈善で施療していると評判の名医ピカールに対しては、錬金術の心得がまったくないと知って興味を失う。当夜に再度の黒ミサを期した侯爵は、気位の高い姫が全裸で祭壇に縛りつけられたときの悲嘆を思って胸躍らせながら、昨夜下げ渡されたマリヤを拷問室に連れ込んで責め苛んでいるフォラスの見物に向かう。姫の侍女クレリヤは主人の生贄の儀式に立ち会わされたうえ、首尾良く秘密を手に入れた暁にはプレラチに与えられることが約束された。
黒光りする鉄の固い帯がガッシリ食い込んでいるさまは、汚れを知らぬ姫を、羞恥と屈辱に身ぶるいさせるのに十分だった。
その夜、ブランシュは自室に特別にしつらえられた豪華な浴槽の中で湯のぬくもりにひたりながら、形のない不安にさいなまれていた。イタリア出身と知れた姫のためにわざわざ浴槽を運び込んでくれた城主の歓待ぶりに緊張をほどかれながらも、その日一日に城内で眼にした光景の数々に、処女の感受性はただならぬ異様さを感じ取っていたのだ。女中の類がほとんどいない城中でわずかに眼にした女といえば晩餐の席で家臣たちにはべっていた気品ある美女たちだけで、ブランシュが紹介された時のその憐憫と同情の入り混じった表情が奇妙な印象を残していた。そして侯爵に城内を案内されていた昼間に一室で行き会ったのは、若く美しい全裸の女を四つん這いにさせ首に巻きつけた鎖を引いて床の上を追い立てている小人フォラスの姿であった。背中に鞭痕を刻まれ乳ぶさを揺らして這いずりまわる女の腰には、処女の姫には眼にするのもおぞましい黒い鉄の貞操帯が嵌められていた。羞恥と嫌悪に身震いして眼を伏せ、小人のいやらしい視線で下からすくいあげるようにのぞき込まれて戦慄したブランシュは、やがて自身をも同じ境遇に落とそうともくろんでいる侯爵が、羞じらう乙女の姿に背後から好色な視線を浴びせていることを知るよしもなかった。
無垢の身を抱き締めるようにしておぞましい回想を振り払ったブランシュの思いは、いまだ行方の知れないという恋人ファビオの境遇へと移る。かつて一度だけ口づけを交わした身分違いの凛々しい若者の面影を追い、甘美な陶酔にふくらむ乳ぶさを抱いてひとり頬を染めていたブランシュの夢想は、しかし、クレリヤが控えているはずの衝立の陰で起こったただならぬ物音に破られる。再び不安に駆られて侍女の名を呼ぶブランシュの前に、衝立の陰から顔をのぞかせたのは、忍び笑いを浮かべた小人フォラスであった。驚愕し、タオルで胸を覆って浴槽にしゃがみ込んだブランシュの傍に歩み寄ったフォラスは、高貴の姫の甲高い叱声をものともせず、白い裸身を湯の中に縮めている姫の周囲を回って卑猥なからかいを浴びせかける。あまりの侮辱に声を失って慄えるブランシュの前で衝立が押しのけられると、姿の消えたクレリヤの代わりに、腰布だけをまとった四人の巨人の黒人奴隷が歩み出る。フォラスの命令で浴槽を肩に担ぎ上げた奴隷たちは、湯を張ったままで一つの輿と化した浴槽を、その中で悲鳴をあげる全裸の姫もろとも運び出していく。