透けるような肌を、鎖が銀蛇さながらに巻き締めていた。
高原の広大な山林の中に別荘を持つ都城(みやこのじょう)家の別荘番をつとめる茂吉(しげきち)爺さんは、秋のある日、山林の手入れのために建物の裏から伸びる散策路で、地面につけられた奇妙な痕跡に気づく。丘へと続くその道の土の上に、木材を引きずったような真新しい跡が残されていたのだ。不審に思って丘まで登った茂吉爺さんが目にしたのは、丘の頂に高々と架けられた十字架と、そこに全裸で磔にされている若い女の真っ白な肉体であった。素肌に銀の鎖を巻き締められ、黒髪と下腹の繊毛を風になびかせながらがっくりと首を折っているその女は、茂吉爺さんが仕える都城家の若奥さまにほかならなかった。驚愕する茂吉爺さんの前に、そのとき見も知らぬ薄髪赫顔の大男が現れる。
そのまま夜会に押し出しても恥ずかしくない盛装であるだけに、一層夫人の取らされている姿はまがまがしかった。
華族の血をを引き、ミッション系女子大を卒業したのち実業家の夫と結婚した若き貴婦人・都城顕子は、その圧倒的な美貌によって社交界でも崇敬の的となっていた。上流社会の遊び好きな不良青年・戸田信彦は、子どものない顕子夫人を誘惑して不倫を仕掛けることに成功するが、情欲の床にあっても顕子は積極的な反応を示さず信彦の高慢な自信を打ち砕いた。屈辱にまみれた信彦は、画家である知人の堀尾繁喜を誘い、顕子夫人の肖像を描くように仕向ける。野獣派の流れに属する堀尾は、美女をあえて醜悪に描き出す露骨な作風で評判となっていたのだ。都城家の邸宅に招かれた堀尾と対面した顕子夫人は、その粗野な外貌に当惑しながらも絵のモデルとなることを承諾する。数日後、創作の様子を見物しに堀尾のもとを訪れた信彦は、奥のアトリエから洩れ聞こえる嬌声をいぶかって覗き見る。そこでは黒ビロードのドレスに盛装した顕子夫人がモデル台の上の椅子に掛けたまま、そのドレスを乱され、拡げた股の間にしゃがみ込んだ女の手で剥き出しの股間をなぶられて淫らに喘ぎ歔いていた。貴婦人の淫らな崩れぶりを傍らで見守っていた堀尾は、覗き見をしている信彦の存在に気づくと、唖然とする信彦を非情にも締め出す。
鏡は汗に湿った乳肌を、長虫のように這いずった。乳房が眼に見えてしこり、肌を粟立て、そして乳首を震わせた。
顕子夫人が堀尾の獣性に籠絡されることになったのは、その冷たい気品の底に秘めていた空虚を見抜かれたためであった。何日か屋敷に通ってデッサンを繰り返すうちに顕子夫人の本質を言い当てた堀尾は、呪縛されたような夫人をそれ以降はアトリエに呼び出してデッサンに励んだ。鬼気迫る創作作業のさなか、ふいに荒々しくドレスの胸元を剥がれた顕子夫人は、内心の矜りに反して抵抗することができず、むしろあらわにされたおのが肉体に未知の昂ぶりを覚えたのだった。堀尾の言いなりとなり、剥き出しの乳ぶさに金鎖を巻き締められた姿を鏡の中に見せつけられる顕子の中に、マゾの本性が目覚める。四つん這いに這わされ尻を打たれつつ屈服の言葉を口にした顕子は、堀尾の獰猛な肉体で荒々しく犯されて、結婚生活では得られなかった生まれて初めての絶頂を極めた。
真っ白な内股をみずから拡げ、白魚の指で自分を責めながら、夫人は汗の光る腹を波打たせた。
女の悦びを覚えた顕子は夫との穏やかな閨事に飽きたらず堀尾のもとに通いつめる。アトリエを訪ね、堀尾が隣室で別の女と戯れるのを一時間も待たされる屈辱にももはや反発の気力が起こらない顕子。やがてセックスメイトのキミとともに寝室から出てきた堀尾は、気品あふれる貴婦人のドレスを剥いで鎖でいましめたうえ、その眼の前で緊縛したキミを犯してみせる。若い女が嬌声をあげながら絶頂を極めるのを見せつけられて顕子は陶酔に朦朧となる。跪かされた夫人は堀尾の濡れ光る怒張を口に押し込まれ、予想もしなかった屈辱の奉仕に励みながら、肉欲に爛れきった秘裂をキミの持つバイブレーターで貫かれる。そして堀尾の精を呑まされて奴隷のようになった顕子は、なおも責められて失神寸前にのたうっている場面を信彦に目撃されたのである。もはや肖像画のことも忘れ果て、堕ちた貴婦人は堀尾の責めがもたらす快楽の日々に溺れ込んでいく。浣腸、排泄、肛姦を強いられ、四つん這いで尻を打たれ、堀尾の眼の前でオナニーで昇りつめていく顕子夫人の姿は、倒錯のマゾ愛に目覚めた女奴隷そのものであった。
たえず微風が渡って、十字に梟された貴婦人の素肌をなぶり、胸乳にまでかかる髪をゆらめかせたが、顕子夫人の肉体そのものは、凝固したように微動だにしない。
顕子夫人はミッションスクール時代から、磔にされる殉教者に自分を重ね合わせて性的な昂ぶりを味わっていた。夫人からその性癖を聞かされた堀尾は想像力を喚起され、都城家の山荘を舞台にして磔遊戯を試みる。二人きりで山荘に泊まって乱淫を尽くした翌朝、顕子は全裸の身に磔柱を背負わされて裏手の見晴らし台へと登らされる。初秋の風が吹きわたる丘に白木の十字架が立てられ、貴婦人の一糸まとわぬ裸体が鎖で磔にされる。白昼の屋外に全裸をしらじらと曝して磔にされた顕子夫人はマゾの官能を煽られて陶然となり、その美しい磔刑の姿を、堀尾もまた声もなく見守る。磔にされた貴婦人が恍惚のあまり絶命したのがいつの瞬間だったのか、堀尾ですら気がつくことはなかった。